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第10話 決断前夜

Auteur: marimo
last update Date de publication: 2026-02-22 20:18:58

夜の九条邸は、相変わらず静かだった。

広すぎる廊下を歩きながら、

綾乃は、自分の足音がやけに大きく響くのを感じていた。

(決断前夜……か)

そんな言葉が、ふと頭をよぎる。

明日、

外部監査チームによる本格的なヒアリングが始まる。

名目は形式的な確認。

だが実態は、誰を切るかを決めるための場だ。

その対象に、自分の名前が含まれていることを、綾乃は知っている。

そして――

九条玲司が、その事実を知っていることも。

書斎の灯りが、ついていた。

ノックをする前に、中から声がした。

「入れ」

扉を開けると、玲司は机に向かったまま、書類に目を落としていた。

その背中は、いつもより少しだけ、重く見える。

「……こんな遅くまで?」

「習慣だ」

そっけない返事。

だが、それでいい。

今夜は、言葉の装飾はいらなかった。

綾乃は、机の向かいに座る。

「明日から、始まるわね」

「ああ」

短い応答。

「私、呼ばれると思う」

「呼ばれるだろうな」

否定しない。

その事実が、胸に刺さる。

「もし――」

言いかけて、綾乃は一度言葉を切った。

「もし、私が“切られる側”に回ったら」

玲司の手が、止まった。
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